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南界堂通信〈夏号|第35号〉

追っかけエイズ

エイズ対策とトランスジェンダー

2021年2月発行の『日本エイズ学会誌』に、私が執筆に携わったトランスジェンダーに関する研究ノートが掲載されました。私のように、法律上の性別が男性でセックスする相手も男性のトランスジェンダーは、エイズ対策の中でMSM(男性とセックスする男性)として位置づけられてきました。しかし、その取り組みにおいて主に想定されてきたクライアントはゲイ向け商業施設を利用するゲイ男性であり、私のような存在は周縁化されてきました。そこで、ハッテン場を利用する女装者二名を対象にインタビュー調査を実施し、当事者たちの性行動やHIV/AIDSに関する意識について明らかにすることを通して、トランスジェンダーを対象とする有効なエイズ対策について考えてみたのがこの研究ノートです。

この研究の構想には、私のセックスワーカーとしての経験や、コミュニティセンターdistaを利用し始めた頃の経験が大きな影響を与えています。それは、distaのような場所を知らず性感染症について信頼できる情報を手に入れることが難しかった経験や、distaに出入りしてそれらの情報は手に入るようになったけれど、トランスジェンダーのための情報はほとんどないことに疑問を抱いたりした経験です。こうした状況を変えたいと思ったことが、この研究に取り組むきっかけでした。

この研究ノートでは、トランスジェンダー対象のエイズ対策を進める上で、distaのようなコミュニティセンターを拠点とする従来の取り組みと協働することが重要だと結論づけています。かつて、ゲイ男性も女装者もみんな「おかま」と呼ばれたり、当たり前のように同じお店で働いていた時代があったそうです。また、ゲイ男性やニューハーフ、性同一性障害、トランスジェンダーといった言葉が浸透してコミュニティも細分化された今でも、女装して男性とセックスする人たちはゲイタウンやその周辺に存在し続けています。これらを考えあわせれば、トランスジェンダー向けの取り組みをゲイ男性向けの取り組みと協働しながらやっていくべきという指摘は、何でもかんでも切り分けてしまった現代へのアンチテーゼであり、当然の帰結のような気もします。こうした時代の移り変わりとそのいびつさに注意を向けながら、トランスジェンダーのセクシュアルヘルス増進に向けて、これからもエイズ対策研究に取り組んでいけたらなと思っています。

宮田りりぃ

ジェンダーとセクシュアリティ研究が専門の大学非常勤講師。2009年からコミュニティセンターdistaでトークイベントを主催し、2013年からはスタッフとして運営に携わるようになりました。この春からdistaスタッフは卒業しますが、引き続きMASH大阪の活動には関わりたいと思っていますので、もし見かけたら気軽にお声がけ下さいませ。

宮田りりぃ

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