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南界堂通信〈夏号|第35号〉

知られざる偉人伝

タイ映画『ミウの歌〜Love of Siam〜』から、
タイBLドラマ『マナー・オブ・デス』へ 

─チューキアット・サックウィーラクン監督

『ミウの歌〜Love of Siam〜』(2007)
『ミウの歌〜Love of Siam〜』(2007)

前回(南界堂通信第三四号)、タイをはじめとするアジアのBLドラマの人気が急上昇していることを紹介した。今回はタイの映画とBLドラマを手掛けるチューキアット・サックウィーラクン監督を取り上げてみたい。

チューキアット・サックウィーラクン監督の代表作に、2007年公開の映画『ミウの歌〜Love of Siam〜』がある。幼馴染の二人の男子高校生(ミウとトン)を主人公とし、数々の映画賞を受賞している作品だ。155分の長編ストーリーの軸は、恋愛より家族にあるのだが、タイで初のティーンエイジャーのゲイの恋愛を扱ったヒット作として知られている。

「2007年で“初”なのか?」と驚かれるかもしれない。タイといえば性的マイノリティがオープンに暮らす国、というイメージを持つ人も多いのだが、実際には同性婚などの法的権利も保障されておらず、トランスジェンダーが国会議員に当選したのは2019年になってのこと。LGBTのメディアでの描かれ方もステレオタイプなものが多かったという。

『ミウの歌』にはミウとトンのキスシーンがあるのだが、当時、これがショッキングな事として捉えられた。映画館では怒りと支持の声があがり、ネットでも議論が起こった。こうした反応に対し、監督はインタビューで「タイ社会のホモフォビアは解消されたと楽観的に考えすぎていたかもしれない」と答えている。

ただ、劇場公開時のポスターは二組の異性愛カップルの青春映画を連想させるデザインとなっていた。これが、「ゲイ映画」に観客を誘導するための「偽りの印象」を与えるものだという、強い批判を招いたのだった。監督の言葉とあわせてみると、同性愛嫌悪による批判をあらかじめ想定して制作や広報が行われたものの、非難は予想した以上に強かった、といえるだろうか。いずれにせよ、タイ映画において同性愛をテーマにするのが困難であったのは間違いないだろう。

『マナー・オブ・デス』(2021)
『マナー・オブ・デス』(2021)

この男子高校生のかわいらしいキスシーンから12年後、監督が初めて撮ったBLドラマが『マナー・オブ・デス』である。タイ北部チェンマイの郊外、霧に覆われた田舎町で起こるクライムサスペンスで、原作は現役医師によって書かれたものだ。BLドラマ制作の依頼を何度も断ってきた監督がメガフォンをとったのは、「学校が舞台のラブコメディ」というタイBLドラマの枠組みに収まらない原作だったからだという。

ネットドラマは手軽に楽しめるものだ。そうしたメディアで、ゲイリレーショシップを描きつつ、推理小説としても楽しめる作品が配信されることに、多くの可能性を感じると監督は語っている。また、本作の特徴を「リアリスティック」とし、「LGBTコミュニティにも見てほしい」と語っていることからも、監督がこのBLドラマをゲイにも届けることも念頭において撮っていたことが分かる。

コロナ禍で観光産業に大ダメージを受けたタイにとって、今やBL産業は目玉商品となり、タイ観光庁も宣伝に力を入れている。タイのLGBTコミュニティから「BLはファンタジーの度合いが強すぎる」という批判を受ける一方、監督のようにコミュニティに届く作品であることを意識しているものもある。今後の動向も目が離せない、と感じている。

堀あきこ

タイBLだけでなく韓流ドラマにも手を出してしまい、時間が足りない毎日です。韓国でBLドラマも作られ始めましたが、どうなっていくでしょうか。紹介した『ミウの歌』はDVDの通信販売(5,000円)があります。レンタルなどはありません。『マナー・オブ・デス』はRakuten TV、ビデオマーケットで配信中です。

http://www.loveofsiam.net/

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