エイズ対策のキーパーソンたち
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MSWから見た
HIV陽性者の状況
〜変わったこと、変わらないこと〜大阪市立総合医療センター
瀧浦その子さん大阪市立総合医療センターでMSW(メディカル・ソーシャルワーカー)として働く瀧浦その子さんに、HIV陽性の方たちを取り巻く状況について語っていただきました。
MASH大阪(以下M):今の仕事に就くきっかけは?
瀧浦(以下、瀧):京都で祖父母の代からキリスト教系幼稚園を経営する家庭で育ったのですが、保育には興味がなく(笑)、ずっとバレリーナになることを夢見ていました。
M:筋金入りのお嬢様!?
瀧:中学まではね(笑)。ところが父親のビジネスが失敗し、一家離散状態になります。高校でもバレエは続けましたが、悩んだ末、一家離散の経験を活かせるかもしれないと考え、社会福祉士や精神保健福祉士の資格が取れる大学に進学することにしました。卒業してすぐ、とある病院にMSWとして就職しましたが、3年半ほどで辞め、引きこもっていました(笑)。そんなときMSW協会が主催する新人研修で親しくなった方から、当院がMSWを募集していると教えていただき、応募して採用にこぎつけました。当院は2007年にHIV治療の中核拠点病院に指定され、それまで手薄だったHIV診療のチーム医療が一気に充実していく時期だったのです。
M:社会福祉士と精神保健福祉士の2つの資格をお持ちですが、仕事の内容はどう違うのでしょうか?
瀧:社会福祉士は、子ども、障害者、高齢者、経済的困窮者など生活上の課題を抱える人々の相談に応じ、福祉サービスの利用につなげたり、関係機関との連携を図ったりと幅広い対象者を支援します。精神保健福祉士は精神科病院や福祉施設などで、主に精神障害者の支援に特化した役割を担っており、医療と福祉の連携のもとで相談援助や日常生活への支援や就労支援などを行います。
M:2007年からすでに17年が経つわけですが、その間に変わったこと、変わらないことがありましたら、教えてください。
瀧:変わったことといえば、訪問看護や在宅介護の事業所でHIV陽性の方を受け入れるところが大幅に増え、在宅医療という点では困ることが少なくなりました。この背景としてHIVに特化した訪問看護ステーションを立ち上げた方たちの地道な活動が実を結んだともいえるかと思います。その反面、療養型病院、リハビリテーション病院、透析病院には依然としてHIVへの偏見が根強く残り、「HIVだけはダメなんです」という決まり文句をよく聞かされます(MASH大阪より:本号の「追っかけエイズ」欄も参照してね)。なんとももどかしい話ですが、HIV陽性の方が身近にいると思い至らない人は実情を知らず、平気で差別するのですね。
M:HIV陽性の方たち自身の治療、服薬の状況に変化はありましたか?
瀧:2007年当時から、当院には服薬に困難を抱える方がおられたのですが、その傾向は今でもなくなった訳ではありません。現在のように一日一錠、副作用もほとんどなしという条件でも、中断する方は一割程度おられます。HIVに対して陽性者自身のスティグマが強く、毎日服薬することによって自分はHIVなんだと認めざるを得ない状況に嫌悪感を示す方もおられます。繰り返し中断される方もおられますが、HIVに関してはチーム医療が確立しているので、相談しやすい職種の人や支援団体につながっていれば、久しぶりに診療につながることにもなります。MSWとしては訪問看護につなげるなどして服薬が継続できるよう支援しています。
M:家族との関係、パートナーとの関係については?
瀧:残念ながら(笑)この点についても大きな変化はありません。独居で、社会的孤立状態にある方もおられますし、パートナーと同居されている方もおられます。同居の場合、パートナーが訪問看護やヘルパーさんが介入してくるのに消極的な場合もあれば、逆に要求度が高すぎて事業所とうまくいかない場合もあります。男女の夫婦関係と違う点があるとすれば、介護する・されるの関係になったとき、2人の関係性が即座に問われることでしょうか。パートナーが突然居なくなる、というケースもあります。そんなとき、誰をキーパーソンにするかで大いに悩みます。本人の意向をできるだけ尊重し、支援を担ってくれるキーパーソンを多職種で話し合って決めています。陽性者自身も自分に介護が必要になった時や意識がなくなった時に誰に連絡取ってほしいか、誰と暮らしていきたいか、医療従事者に意思表示しておいてもらえると良いですね。
パートナーと家族の関係もさまざまです。関係が良好であっても、本人がHIV陽性であることを家族が知らなければ、互いに気を遣うことになりますし、逆に家族がパートナーに対し「息子がエイズになったのはお前のせいだ!」と攻撃してくるケースもあります。どちらの場合も、HIVはまだまだトクベツな病気なのですね。
M:さまざまな「もどかしさ」を感じつつ働いておられることがよくわかりました。貴重なお話、ありがとうございました。