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南界堂通信〈春号|第46号〉

エイズ対策のキーパーソンたち

HIV感染≠病気!?
梅毒は注射で治る!?
痔と思ったらエムポックス!?

大阪市立総合医療センター医師 森田 諒先生

大阪市立総合医療センター感染症内科医師・森田 諒先生に大阪でのHIV、梅毒、エムポックスの状況を語っていただきました。

森田 諒先生 森田 諒先生

MASH大阪(以下M):医師になったきっかけは何ですか?

森田先生(以下、森田):小さい頃から生き物が大好きで、大人になったら生物学者になって動物の生態や体の仕組みについて研究したいと思っていました。まずは生物の中で最も身近で、よく調べられているヒトの体のことを学ぼうと医学部に入りました。

M:なぜ感染症診療の道に?

森田:感染症診療を志した理由はいくつかあります。私たち生物は先祖代々、病原体と闘ってきました。外界から入ってきて私たちの体で生きようとする病原体と私たちの体の“せめぎあい”に興味を持ち、患者様の味方として病原体と闘い、いかに患者様に元気になって頂くか、そのことに注力できる感染症診療に惹かれました。

M:なるほど。今、大阪市立総合医療センター感染症内科ではどのような感染症診療を?

森田:当院では一般感染症診療、HIV/AIDS診療、性感染症診療、輸入感染症診療、結核診療の全てを行っています。細菌(ばい菌)・真菌(カビ)・寄生虫・ウイルスと、相手は多彩です。

M:HIV感染症診療に携わって、今の状況をどう見ておられますか?

森田HIV感染症という表現には少し違和感があります。「感染症」とは病原体の感染によって症状が出る病気のことです。HIVに感染している方の多くに症状はありません。ウイルスとともに生きておられますが、病気ではありません。今は良いお薬(抗HIV薬)があり、ウイルスをしっかりと抑制でき、副作用もほとんどありません。お薬を飲んでいればAIDSにはなりません。HIVに感染している方にお薬をお出しして病気ではない状態を維持して頂くこと、これが私達の役割です。診察の終わりには「お大事に」ではなく「お気をつけて」と言うことが多いですね。

M:発生動向は?

森田HIVの新規感染者数は全国的に減少傾向です。大阪府では2023年に80名の新規HIV感染者が報告されました。中には発見が遅くなり重症化する事例もあります。HIVに感染するリスクのある方には定期的に検査を受けて頂くことをお勧めしています。

M:梅毒の状況は?

森田データ上も実感としても梅毒はとても増えています。MSMだけでなく社会全体で増えています。治療は一昨年に注射薬が導入されて大きく変わりました。以前は多くの薬を長期間服用しなくてはなりませんでしたが、今では早期に発見できれば1回の注射で治ります。

M:えっ、たった1回の注射で?!

森田:そうです。大事なのはやはり「早期発見、早期治療」です。あと、お母さんの胎内で赤ちゃんに感染する先天梅毒は、死産につながったり生まれた赤ちゃんに障害が出たりするので社会全体で取り組む必要があります。妊娠可能年齢の女性をいかに梅毒から守るかも重要な課題です。

M:最近よく聞くエムポックスはどんな病気ですか?

森田:もとはアフリカの一部で流行する人獣共通感染症で、近年までサル痘と呼ばれていましたが、主に齧歯類(ネズミなど)に感染するウイルスによる疾患です。感染から発症までは通常1〜2週間で、発熱と発疹が主な症状です。免疫が正常であれば自然に治癒しますが、免疫が低下していると重症化して命にかかわることがあります。2022年からの世界的な流行は主にMSMの間で性交渉等による接触感染によって起こり、AIDSと合併して亡くなった事例も多く報告されています。日本でも2023年11月に死亡事例が報告されました。

M:大阪での発生動向は?

森田:大阪府では2023年3月に最初の事例が見つかって以降計22例が報告されています(2024年2月1日時点)。しかし、これは氷山の1角と考えています。症状がごく軽い場合や、全く症状がない場合もあります。また、これまで日本になかった感染症のため、病院に行ってもエムポックスと正しく診断されない事例が多くあると考えられます。梅毒やヘルペスの症状と似ていることも原因です。私が診断した方の中には5つの医療機関を受診して診断がつかなかった方がおられました。最近では受診時に痔が辛いとおっしゃったことがきっかけでエムポックスと診断した方もおられました。症状は本当に多彩です。

M:痔もエムポックスかもしれないんですね…。ゲイコミュニティには既に広まっていますか?

森田:そうですね。感染力が強く、その可能性は十分に考えられます。

M:エムポックスかもしれないと思ったら?

森田:出来れば受診することをお勧めします。主な治療法は対症療法ですが、エムポックスの発疹に細菌が感染して傷跡が残りやすくなることは抗菌薬を内服することで抑制できます。またエムポックスと思ったら梅毒やヘルペスだったということがよくあり、その場合は治療が必要です。個人でできることもあります。しっかりと体を休めること、そして性交渉を控え、発疹のある部位をガーゼや衣服で覆って周りの人に感染させないようにする、などです。

M:とっても興味深いお話、どうもありがとうございました。

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