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南界堂通信〈春号|第46号〉

男朋友

『ハリーポッター』の作者も加担!?
トランスヘイトの背景は何か?

昨年は、7月に出された経産省トイレ使用をめぐる最高裁判決をきっかけに、トランスヘイトが吹き荒れた年となりました。LGBTQの研究と教育に携わるゾンビさんにその背景について語っていただきました。

西田彩ゾンビさん 西田彩ゾンビさん

MASH大阪(以下M):なぜ昨年という時点でトランスヘイトの嵐が巻き起こったのか、その背景は何だと思われますか?

ゾンビ(以下、Z):3つの流れがあると考えています。一つは英国のトランス排除を掲げるフェミニズムの一派。二つ目は米国の福音主義派教会の影響。三つ目はその米国の影響を受けた韓国のアンチLGBTQ運動の流れ。

M:いきなり海を越えるんですね(笑)? 英国では何が起きていた?

Z:英国は医療制度が破綻していて、受診に至るまでに数か月かかることも珍しくない。こうした状況の中、白人中流階級の若いママに絶大な人気の育児交流サイトが医療や政治への愚痴・不平不満を吐き出す場ともなっていた。医療手続きの簡素化等を盛り込んだ性別承認法の改正が発表されたとき、この交流サイトへトランスヘイトの言説が入ってくる。男が女を名乗って女性に性暴力を振るうのではないか、という恐怖の種が蒔かれていく。

M:トランスヘイトの根っこには男性の性暴力への恐れがある?

Z:そうです。そして火に油を注いだのが、『ハリーポッター』の作者・J・K・ローリングでした。彼女は、コロナ禍において弱い立場に置かれている女性や多様なジェンダーの人々の衛生環境改善を訴える社説タイトルに使われた「月経のある人」という表現に噛みつき、 「女性という言葉が消された」とツイートしました 。彼女の発言はトランスヘイトを表明したものではないのですが、トランスの人々と女性が対立した関係であると位置付けたのです。

M:米国の流れというのは?

Z:米国には福音派と呼ばれる原理主義的で保守的な教会勢力があります。原理主義とは聖書の内容を文字通り受け止めて自分たちの行動原理とすることですが、彼らは80年にレーガン大統領誕生を後押しし、その強力な政治的影響力を米国社会に知らしめます。彼らは一貫して同性愛には非寛容、中絶には反対の立場を取ってきたのですが、2015年、同性婚の合法判断が連邦裁判所で出されると、レズビアンやゲイを攻撃しても反発が強くなり、選挙戦でマイナスになる。そこで今度はトランスが彼らの標的の中心になります。2017年に福音派の指導者たちが連名で公開した全14条からなる『ナッシュビル宣言』では、第5条、第7条、第10条、第13条で明確にトランス否定を表明しています。
歴史的にも、米国社会においてトランスジェンダーの人々は壮絶な抑圧下にあります。この状況を改善していくために、2015年オバマ大統領は公民権をLGBTQにも適用されるように変更し、そしてトランス児童生徒の対応指針を教育改正法第9編「タイトルⅨ」に盛り込みました。そのタイトルⅨにトイレや更衣室利用に関することも含まれていたことで、これが標的にされます。

M:日本の状況は?

Z:トランスをめぐる議論が活発になるのは2018年、お茶の水女子大学がトランス女性を受け入れると発表したときです。この発表を百田尚樹がツイッターで茶化して取り上げる。するとこれに同調する人たち、前に述べた英国のトランス排除的フェミニズムの影響を受けた人たち、米国や韓国の福音主義派の影響のもと、聖書を原理主義的に理解する人たちがツイッター上で発言していき、これが導火線のようにくすぶり続け、ついに昨年爆発した、というのが私の見立てです。この、性別違和を訴える児童生徒の学ぶ権利を如何にして守るのかという問題は、2005年から教育現場で議論と実践が既に重ねられていました。試行錯誤のなか、様々なファクターを考慮し一人一人の状態に応じて平穏な学校生活を送れるよう取り組みが行われていました。そうした個別ケースにおける合理的配慮の蓄積をふまえ、先ずお茶の水女子大学からトランス女性の受け入れに至ったわけです。

M:そういった合理的配慮の積み重ねを、百田尚樹や彼に追従する人たちが知っているとは思えないのですが…

Z:知らないでしょう。そもそもトランスの傾向をもつ人の割合はざっと1000人に1人。レズビアンやゲイが20人に1人といわれているのとは桁が違う。しかも学校現場での彼らの存在はプライバシーの壁によって手厚く守られています。つまり、トランスの人たちを巡る実情を殆んど知らない人たちが、目耳にした極端な事例ばかりをネタに抽象的な議論を展開している、これが今の日本の構図ではないか、と考えています。

M:トランスヘイトの問題がだいぶクリヤーに見えてきたように思います。どうもありがとうございました。

プロフィール西田 彩ゾンビ

大学教員・音楽家
これまでに中学・高校・大学での性的マイノリティに関する講義や講演、団体・自治体・弁護士協会などでの人権研修、テレビ局や新聞社での社員向け人権講習、一般向け講演や講習、企業の性的マイノリティ対応監修、京都新聞での人権コラム執筆やKBS京都ラジオ出演など幅広く担当。

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