男色エンタメ紀行
ハッテン場の思い出
─ロイヤル・北欧館の閉館に寄せて
半世紀以上営業を続けてきた新世界のロイヤル、堂山の北欧館の突然の閉店は、大阪のMSM(ゲイ・バイ男性)のあいだで大きなニュースとなりました。
MASH大阪の発足以来、両館ともに予防啓発の資材設置にとどまらず、コンドーム配布や性病検査のキャンペーンにも積極的に協力していただきました。
大阪での性的健康の増進に果たした両館の功績に報いるため、今回はハッテン場通いのエキスパートだったユンチャンに、その思い出を語っていただきました。
MASH大阪(以下 M):ロイヤル、北欧館が閉店して、どんなお気持ちですか?
ユンチャン(以下Y):40歳になったらハッテン場を卒業しようと考えていたのが、39歳の今、お世話になった北欧館が急になくなって、悶々とした気分です。
M:ハッテン場に通いはじめたのは?
Y:今から20年近く前、22~3歳の頃です。西成のS館、新世界のE館とロイヤル、以前難波にあったA館、堂山のD館と北欧館など、一通り行きましたが、一番頻繁に通ったのは堂山の北欧館でしたね。
M:それはなぜ?
Y:自分がよく売れたから(笑)。オールジャンルだったし、好きなタイプが多かった。女にもモテそうなイケメン・タイプね。同じ堂山でもD館では売れなかったなぁ…
M:ハッテン場に通いはじめたきっかけは?
Y:翌日が休みの日にミナミの観光バーに行ったのがゲイタウン・デビュー。その後堂山にも行くようになりますが、どうやって北欧館に足を踏み入れたかは覚えてない。休日前の夜に呑みに出て、呑み屋で朝まで呑んで、北欧館に泊まって、翌日パチンコして帰るっていうのが定番のコースでした。呑み屋でお持ち帰りしていっしょに北欧館に、なんてこともよくやりました。これまで7人の男とつきあってきましたが、そのうち2人は北欧館で知り合った男ですね。
M:ハッテン場で知り合うって、どうやるの?
Y:手を出して、ヤることやって、そのあと連絡先を交換して交際をはじめる。彼氏ではなく友達になる場合もある。経験を積めば、相手に応じて臨機応変に対応できるようになって、言葉の広い意味で「関係を発展させられる場」ですね。distaでも友達はできるけれど、ボクの場合、ハッテン場のほうが交際の場が広がった感があります。
M:そうするとユンチャンにとってセックスは…
Y:スポーツとか狩りに近い。ハッテン場は狩り場みたいなもの。「こんなイケメンが相手してくれるんや」っていう、承認要求が満たされる場でもある…
M:深いですね…
Y:コンプレックスがあるんでしょうね。男前じゃないし、まあまあ心を開けない。でもプライドが高く、コンプレックスを伝えられないから、かまってくれないと、自分から身を引く。爪痕は残すけど(爆笑)。人と人の関係では、対等でないとか同じ方向を向いてないとわかると、つきあうのがシンドくなる。その点、ハッテン場はヤリたいっていう方向性が同じなのでラクなんですね。
M:ハッテン場でたくさんの男たちに接してきて、見えてきたことってありますか?
Y:経験を積むと「コイツ、既婚者やな」「コイツはバイやな」「コイツはゲイやな」って、なんとなくだけどわかるようになったことですね。
M:ほう? 既婚者の特徴は?
Y:気持ちいいことに貪欲な快楽主義者。目つきから違う(笑)。複数の男に回されたい、とか。一方でプライバシーのガードが堅い。
M:バイは?
Y:究極のさみしがりや(笑)。男でも女でもいいから、そばに居てほしい。「女の子好きやし、ゲイじゃないねん」というノリも感じる。
M:じゃあ、ゲイは?
Y:愛すべきクズ野郎(爆笑)。自分も含めての話ね。初めての彼氏にフラレたとき「お前みたいなブスとはつきあってられん!」。色恋沙汰で人の気持ちをもてあそぶところがある。下心から関係に入るから、フツーの友人関係を築きにくいのだろうと。
M:なるほど。これも深い話ですね…最後に、性病の予防は?
Y:ナマが増えてる印象ですね。以前は、ナマで入れようとすると「つけて!」って言われることが多かったですが、最近は少なくなりました。プレップが普及してるからかもしれないし、HIVに感染したら障害者手帳がもらえるから得だというイメージがあって、HIVに感染してもいいという雰囲気が生まれつつあるように思います。ボク自身HIV持ってるから、抗HIV薬飲んでウイルスは検出限界以下になってるから他の人にうつすことはない。毎日プレップやってるのと同じ。だからボクの場合、コンドームを使う、使わないは相手次第ですね。ただ他の性病は予防できないけどね。
M:ハッテン場は文字通り関係を発展させうる場だという話、そこで出会う男は3種あるという話、それと抗HIV薬を服用することは毎日プレップをやってるのと同じだって話、どれも興味深かったです。どうもありがとうございました。
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