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南界堂通信〈秋号|第20号〉

エイズ対策のキーパーソンたち《番外編》第二回MASH大阪研修会報告

HIV感染の最新状況を探る─大阪のエイズの状況をめぐる二つの問い  市川誠一さん(人間環境大学大学院)/ 松岡佐織さん(国立感染症研究所エイズ研究センター)

去る九月十六日、「いま、大阪のHIV感染はどうなっているのか?」という問いをテーマに掲げた研修会がdistaで開催されました。
この問いに二人の研究者が取り組み、現時点の到達点を報告しました。

実際にどのくらいの人がHIVに感染しているか

エイズに関心のあるすべての人たちにとって気になっていることがある。それは、実際にHIVに感染している人たちのうち、いったいどれくらいの人がそのことを知っており、治療をうけているのか、という問いだ。この困難な問いに果敢に取り組んでいる研究者が、国立感染症研究所の研究員、松岡佐織さん(エイズ研究センター)。国立感染症研究所は、戦後まもなく、結核、腸チフス、日本脳炎、寄生虫病など数々の感染症が蔓延していた時代に設立された。政府がこれらの感染症に対する対策を講じる際、その科学的根拠を提供するのが主な仕事である。現在では、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫、獣医学などについての基礎・応用研究のほか、エイズ、インフルエンザ、ハンセン病などに特化したセンターが設置されており、松岡さんはエイズ研究センターに所属する研究者である。

さて、松岡さんによると、日本では一九八四年から厚労省によりエイズ発生動向調査が行われており、感染がわかった人の性別・年齢・国籍・感染経路が記録されている。発症前に感染がわかった人はここ数年、毎年ざっと一,〇〇〇人、発症後にわかった人(患者)は五〇〇人程度で推移しており、これまでの累計はおおむね二万七千人である。しかし実際に感染している人がどれだけいるかという研究はあまり行われておらず、厚労省が把握しているデータだけでは推定するのが難しい。そこで、海外で行われている研究方法を参考にしながら実際感染している人の数を推定する研究を進めているが、まだ結論は出ていない。目下のところ言えるのは、大阪地域では実際に感染している人のうち、ざっと八割くらいの人が検査を受けてそのことを知っているらしいということ。この割合は東京ではもう少し高く、福岡では低い。東京、大阪以外の地域ではここ数年、発症後にわかるエイズ患者の数が増えているが、このことは自分がHIVに感染していることに気づいていない人が多いことを物語っているし、福岡以外の地方の状況もこれに近いことが推測される……。

次に、人間環境大学大学院の市川誠一教授がMSM(ゲイ・バイ男性)における感染の状況について報告した。

MSMおよびゲイタウンの人口規模と若年層MSMに向けた対策

これまでの調査で、成人男性に占めるMSMの割合は四. 一%であり、全国でざっと一三四万人、このうち三六%の人(約四八万人)がゲイタウンを利用しており、ゲイタウン利用層は性行動が活発なことがわかっている。今後もゲイタウンで予防啓発活動を続けて行くことが重要である。

MSM全体で見ると感染している人の数は横ばいか低下傾向であるが、一九八〇年以降に生まれた人のあいだでかなり増加している。その対策の一環として二〇一四年から全国で展開されている〈ヤる!プロジェクト〉は、大阪地域でプロジェクトを認知している人における受検行動とコンドーム使用を二〇%程度押し上げており、大きな成果を挙げつつある。

先進諸国のMSM人口におけるHIV感染は日本と同様、おおむね横ばいか減少傾向にあるが、例外は台湾であり、ここ数年日本で感染がわかった人は七〇〇~八〇〇人で推移しているのに対し、台湾では一,八〇〇~一,九〇〇人である。人口比(日本のざっと五分の一)を考え合わせると、驚くべき高水準である。

松岡さん、市川さんの発表からうかがえるのは、国際的な水準に照らし合わせてみても、大阪のエイズ予防対策は高い水準を保っていることでした。この背景には、ゲイタウンの商業施設を経営する人たち、利用する人たち、エイズ予防にかかわる行政の人たち、ボランティアの人たち、企業の人たち、そしてお二人のような研究職の人たち――地域の健康課題にかかわるすべてのセクターの人たちの参画と協働がしっかりと根をおろしているのだとあらためて思った次第です。

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