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南界堂通信〈夏号|第39号〉

海外男街通信

アジアのLGBT事情を
西欧モデルで
説明するんじゃねぇ!

今回は「進んでる西欧、遅れてるアジア」という
イメージをひっくり返す
画期的な書物を紹介します。
『東南アジアと「LGBT」の政治』(日下渉・伊賀司・青山薫・田村慶子編著、明石書店、2021年)
『東南アジアと「LGBT」の政治』
(日下渉・伊賀司・青山薫・田村慶子編著、明石書店、2021年)

西欧の民主主義体制の国々におけるLGBTの認知と権利獲得は、ここ2、30年で目覚ましい展開を見せています。多くの国で同性婚やパートナーシップが認められ、反差別法が施行されるようになりました。政治的リーダーでカミングアウトする人も増えています。ロシアやハンガリーが同性愛を広めると解釈できる行為を違法化・犯罪化した際、EU政府が猛反発したことは記憶に新しいですよね。

しかしだからといって、そうした法整備が進んでいない非西欧の国々を西欧側が「遅れてる」と見るのは違うんじゃないか、非西欧の国々にはLGBTに関して西欧とは異なった独自の歴史と文化を持っているし、そもそも法制化が遅れているのは、そうした国々の多くが西欧諸国(特にイギリス)の植民地だったところに端を発しているからではないか、これが今回紹介する『東南アジアと「LGBT」の政治』(日下渉・伊賀司・青山薫・田村慶子編著、明石書店、2021年)の主張です。

編著者たちによれば、西欧の研究者たちに共通する姿勢は「LGBTの文化と運動はグローバル化とともに西欧から非西欧地域に広がっていったが、それぞれの地域で保守勢力との対決を余儀なくされている。この対決に勝利するためには、四つの条件――民主主義が根付いている社会であること、都市化・近代化が進んだ社会であること、保守勢力がLGBTへの権利付与を脅威とみなさないこと、必要な資源が動員され「見える化」が維持されること――が充たされることが必要である」と考えているところにある。しかしこのような考え方はあまりにも西欧中心のものではないのか。非西欧の国々は独自のLGBT文化を持っているし、そうした独自性を無視してシンガポール、香港、マレーシア、ミャンマーに同性愛行為を犯罪化する法律を導入したのは他ならぬイギリスではないのか。編著者たちに一貫してみられるのは、こうした疑問なのです。

疑問を提示するにとどまらず、編著者たちは「善き市民」という概念を導入し、各国の政府が誰を「善き市民」とみなし、誰を「好ましくない人物」とみなしているか、言い換えると、それぞれの国でLGBTなどの少数者が「善き市民」とみなされ、社会に包摂されているか、そうではなく排除の対象となっているか、さらに、包摂しようとしたとして、どのようなかたちで包摂しようとしているのか、をそれぞれの政府が取っている政策に注目しながら分析していきます。

2019年5月、アジア初の同性婚可能国となった台湾で、開始初日に同性カップル300組以上が婚姻届を提出した。
2019年5月、アジア初の
同性婚可能国となった台湾で、
開始初日に同性カップル300組以上が
婚姻届を提出した。

分析の結果、LGBTを積極的に「善き市民」とみなし包摂しようとしている国は台湾とタイの二つだとされます。台湾では2007年に反差別法が成立、2019年には同性婚が認められており、最も包摂が進んでいる国とみなされます。タイでは2015年に差別禁止法が成立しています。これら二つの国はLGBTに関して支援型の政策を取る国と位置づけられます。これに対し、あからさまな排除はしないものの、どちらかといえば抑圧的な政策を取っているのがインドネシアとマレーシアだとされます。マレーシアはかつてイギリスの植民地であり、イギリスの法律が適用され、同性愛行為を犯罪とするいわゆるソドミー法が今でも存続しています。マレーシアといえばエイズ対策における民間人が活躍している印象がありますが、そこには、性的少数者がこの法律のせいでLGBTの権利獲得運動に参加しづらいのでエイズ対策に参集しているという背景があります。

2020年7月、タイでは同性カップルの結婚を事実上認める、「市民パートナーシップ法案」を承認した。
2020年7月、タイでは
同性カップルの結婚を事実上認める、
「市民パートナーシップ法案」を承認した。

いっぽうインドネシアは、一時期LGBTの見える化が進んだのですが、近年、イスラム保守勢力からの反発が強くなり、運動自体がかなり制限される事態となっています。

さて、残りの国々――中国、韓国、日本、フィリピン、シンガポール、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー――は、積極的に排除も包摂もしない「放置型」の国に位置づけられています。あからさまな排除もしないが、国内の保守勢力の反発を恐れて包摂策も取りづらい、煮え切らない政策決定者をいただく国々です。

日本はおそらく他のどの国にもまして独自の男色文化を持っている国ですし、自治体・企業・NPOセクターでの包摂は進んではいますが、少なくとも国の政治の文脈ではまぎれもない「放置型」国家だと認めるしかないようですね。

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